ポール・オースター『最後の物たちの国で』☆★★★★

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

id:yurisama先輩おすすめのポール・オースター。行方不明の兄を追って、最後の物たちの国に旅立った主人公のアンナ・ブルームがこちらの世界に向けて書き送った書簡の形式をとっている。
カルト教団「走者団」「匍匐団」「微笑団」は19世紀ロシアの異端派に近い感じがする。行き倒れの死体の衣服をはいだり、金歯を抜いたりするのはユダヤ人迫害とか中国の阿片窟のイメージ。アンナやイザベルの職業、ショッピング・カートを引きずって、ゴミをあさる「街漁り」。これは途上国の都市でよく見られる光景。町並みの描写はニューヨークっぽい。おそらく、まったくの想像から作られた世界ではなく、現実で起こったことのコラージュなのだろう。
主人公が最終的に行き着く慈善施設ウォーバン・ハウスの物資の調達をしているボリス・ステパノヴィッチという叔父様がとても魅力的。うさんくさくて、ユーモアがあって、ちょっぴり贅沢で。アンナと二人、帽子をかぶってお茶をしたり、脱出できたらウォーバン・ハウスのメンバーでサーカス団を作ろうなんて夢を語ったり、何かとアンナの慰めになっている。
読後感は、ブローティガン『愛のゆくえ』ISBN:4151200215った。