L. M. ビジョルド『無限の境界』

無限の境界 (創元SF文庫)

無限の境界 (創元SF文庫)

社会人になって初めて読み終えた本がこれってどうなの…。
ビジョルドの代表作・マイルズシリーズの短篇が3作収録されています。マイルズシリーズはSFではなく、スペースオペラジュブナイル小説だといわれることがあります。大学の比較文学の講義で、SF担当の教授が、スペースオペラとSFの分かれ目は、舞台が宇宙でなくてもストーリーが成立するかだと言っていたけれど、そういった意味において、マイルズシリーズはたしかに典型的なスペースオペラだといえます。
マイルズシリーズは、バラヤーの大貴族の一人息子・マイルズが、トラブルに巻き込まれて、ときに自暴自棄になりながらも、頭の良さと機転(ハッタリ)でどうにか切り抜け、ちゃっかり据え膳も食う…という話が多いです(笑)バラヤーは皇帝と貴族による封建的支配が行われていて、マイルズの父親は皇帝の摂政をつとめているのですが、母親は民主主義の国・ベータ出身なので、二人の間に生まれたマイルズは弱者に対して優しく、自身が身体的障害を持っているせいで傷つきやすい。とくに本書に収録されている「迷宮」で、狼女・タウラにみせる優しさにはきゅんとします。スポーツ万能でまっすぐで、やたら熱い主人公に食傷気味なら、賢く繊細なマイルズをぜひ。