ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

月面で赤い宇宙服を着た人間の死体が発見された。「チャーリー」と名づけられた死体のわずかな所持品をもとに、専門家のチームが死体の謎を割り出していく過程が、プロジェクトXっぽくて面白いです。わたしは語学や翻訳に興味があるので、手帳や書類のシーンが楽しめました。最後は人類はどこから来たのかという壮大な謎の解明に繋がっていきます。ハードSFの代表作なのですが、ほろりとくるシーンもあります。以下に、死体が残した最後の日記を引用しておきます。

【ミネルヴァはどうなったろうか。この禍いの後、果たしてわれわれの子孫はより恵まれた場所で生き延びるだろうか。もし生き延びたとしたら、彼らはわれわれが何をしたか、いくらかでも理解するだろうか。
【かつてこんなことは考えたこともない。工場や鉱山や軍隊で暮らすばかりではない、もっと意味のある生き方はきっとあるはずだ。それがどんなことか、自分にはわからない。われわれはそれ以外の生き方を知らずに過ごしたのだ。しかし、この宇宙のどこかに、温かく、色と光に満ちた世界があるならば、われわれがして来たことから、何か意味のある結果が生まれるはずなのだ。
【一日としてはあまりにも考えることが多すぎる。しばらく静かに眠りたい。】(p.206)