古川日出男『アラビアの夜の種族』☆★★★★

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

著者がアラビアの都市ジェッダで偶然入手した無署名・発行所不明の英訳本"The Arabian Nightbreeds"の翻訳本という、なんともあやしげな設定の大作。原稿用紙にして約2000枚。やー、読んだ、読んだ(笑)
舞台は聖遷暦1213年、ナポレオン艦隊に攻め込まれんとするカイロ。エジプト側の高官に仕える美貌の高級奴隷アイユーブが用意した秘策は、読む者を狂気に導くといわれる『災厄の書』―夜の種族の語り部によって夜ごと語られる年代記
もう面白くないはずがない設定。それに加え、翻訳文的な効果を狙ったのか、妙に癖のある地の文*1に、あざといほど現代風に砕けた会話文というミスマッチの妙。*2前半はイスラム社会の仕組みなど設定を詰め込むのでつらいかもしれないが、物語の中心が『災厄の書』の三人の主人公に移ってからはすいすい読める。RPGが好きな人*3、あるいは単純に読むという行為を愛する人に読んでほしい。読書好きの人間にとって、この本はまさに『災厄の書』だから。

*1:ルビや訳注が多くやたら回りくどい

*2:どうでもいいことだけど、蛇のジンニーアの口調はどうも、藤崎竜封神演義』の妲己を連想させる…。私だけ?

*3:ウィザードリィRPGの世界観をダンジョンの成り立ちから魔物を倒すと金がもらえる理由まで理路整然と説明してくれる。